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​「大学への数学」にコラムを掲載している塩崎ひかる先生からのメッセージです。

ぜひ、ご覧ください。

【塩崎ひかる先生プロフィール】

塩崎 ひかる
2000年生まれ,牡羊座.
愛知県の私立滝中学校・滝高等学校を卒業.在学中は数理研究部の部長を務め,数学甲子園全国大会に3度出場.優勝1回,入賞1回の実績を持つ.東京大学理学部数学科を卒業後,現在は東京工業大学大学院理学院数学系で解析的整数論を研究する傍ら,私立開成学園にて講師として教鞭を執る.
この若さでありながら,数学教育の分野でも精力的に活動.安田亨氏の入試問題解答集の執筆に参加し,東大・京大をはじめとする難関大の入試解答を軒並み担当している.昨年,安田氏と共著で出版した『難問ラプソディ』は、初版1000部をわずか3ヶ月で完売.今や超上位層向けの参考書のバイブルとなりつつある.今年度からは受験雑誌『大学への数学』に隔月で記事を寄稿し,医系予備校のテキスト作成も担当.活動の幅をさらに広げている.

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また,音楽活動にも力を入れており,バンドのGt.Vo.としてアルバムを3枚リリース.作詞・作曲も手掛けるなど,多才な一面を持つ.さらに,2022年度の東京大学駒場祭テーマソングも担当し,学内外で注目を集めた.
洗練されたエレガントな解法を追求し,問題の本質を見抜く力を重視.受験テクニックに頼らず,数学の核心に迫る解答を提案し,解答の書き方や思考プロセスまで丁寧に指導することを信条としている.
YouTube Channel:https://www.youtube.com/@hocsom_toru_yasuda
Twitter:https://twitter.com/shitake_math

【塩崎ひかる先生からメッセージ】

​「天才」ではないあなた方への勉強法


 みなさん,こんにちは.塩崎ひかるです.今日は,数学を勉強していくにあたって誰しもが一度は経験する「あの悩み」について私なりの意見と勉強法を述べたいと思います.では「あの悩み」って何かって?それはズバリ…
「簡単な問題や,やったことのある問題は解けるけど,ちょっと捻られたりすると解けないよ…」
というものです.この悩みは誰しも一度経験したことがあるのではないでしょうか?巷には色々な人がいて,多種多様な意見が溢れています.例えば「網羅系の参考書(青チャートやFocus Goldなど)をやれば東大なんて楽勝だ!」という意見や,「この参考書さえやっておけば〇〇大は余裕!」など,目移りしたくなるようなアドバイスがたくさんあるでしょう.はっきり私が述べておきますと,これらは全部本当であり,全部嘘です.すべてそれらのアドバイスの前に「その人の場合は」という文言をつけて読んでください.「『その人の場合は』網羅系の参考書をやれば東大なんて楽勝だ」という意味です.決して,「『すべての人が』網羅系の参考書をやれば東大なんて楽勝だ」と主張しているわけではないということをよくよく念頭においてください.大体,誰しもに当てはまるベストな勉強法なんてものがあれば,誰だってその通りにやっています.学問に王道なしと言います,数学だって当然そうです.網羅系を1冊やればたちどころに力が付く人ももちろんいるでしょう,でもそうでない人だって当然います.理解度や学びの深さに個人差があるのは当たり前です.誰にだって当てはまる勉強法なんてあるわけがありません.数学に限らず,「耳障りのいい言葉」というのは危ないものが多いです.


 「これでは何も解決にならないじゃないか,私たちを露頭に迷わせるだけかよ!」という批判の声が聞こえてきそうなので,私なりの勉強法をお伝えします.まずは,目標を決めてください.受験生ならば,志望校合格になるでしょうし,まだ受験が遠い人からしたら直近の模試の成績を伸ばすことかもしれないし,定期試験でいい点を取ることかもしれません.次に,その目標を達成するために必要な数学の力を把握してください.より具体的には,10段階くらいで評価してみるといいです.定義や公式を理解することをレベル1,教科書の例題が解けることをレベル3,章末問題が解けることをレベル5,東大レベルの問題が解けることをレベル8,などのようにレベル分けしたとき,自分にどの程度の力が求められているのかを測ります.さらに,自分の数学力がどの段階にあるのかを把握してください.ここで見栄を張っても意味がありません.できないものはできない,できるものはできるとしっかり区別をつけることも力のうちです.あとは,目標達成までの期間の長さと自分の性格を照らし合わせて,今の力と必要な力の差をコツコツ埋めていく,というのが大切です.抽象的ですよね,もっと具体的に「この参考書をやれ!」とか「こうやって問題を解け!」とか言われたいですよね.そんな決まりきったものはありません.


ただ,これだけはお伝えしたい.
「基本問題が解けなければ,応用問題は絶対に解けません.しかし,基本問題だけを100万回繰り返し解いたところで,応用問題が解けるようになるわけではありません.」
当たり前のことなのですが,意外とこれが盲点なのです.例えば,教科書の章末問題レベルが出題される試験に向けて勉強をしている,数学の苦手な人がいたとします.そういう人は大抵どのように試験勉強をするかというと,「定義や定理の確認は問題を解きながらやればいいや」という考えで,それらが不十分なまま章末問題ばかりを復習するのです.これは,自分がレベル1をしっかりとできていないのに,レベル5だけを重点にやればレベル5の力がつくと勘違いしてしまっているのです.逆のパターンもいます.東大合格を目指している人がいたとします.それには当然,東大レベルの力が必要になるわけですが,「網羅系を10周すればいいに違いない!」といって,レベル6くらいの問題を永遠と解き続けていればいつかレベル8くらいの問題を解けるようになると勘違いしてしまっているのです.冒頭の悩みの大半はこれによるものです.目標とするレベルよりも低いものを解いているから,見たことないものが難しく見える,それだけの話です.俗に言われる「天才」という人たちは,レベル2くらいを学べば,レベル8くらいの問題が解けてしまいます.しかし,みなさんの大多数は天才ではないし,天才はこの文章をそもそも読みません.なぜなら,「どのように勉強するか」なんてことを悩むのは彼らにとってはナンセンスだからです.私の同期に国際数学オリンピックを3年連続で金をとった人がいます.彼に「なんでこの問題をこう解こうと思ったのか」と聞いたことがあります.すると,「なんかこうやったらうまくいくような気がしたから笑」って言っていました.それ以上でもそれ以下でもないのです.彼らには勉強法なんて必要ないし,我が道を勝手に好きなようにのびのび進むからよいのです.天才ではないあなた方は,東大レベルの問題が解けるようになりたければ,東大レベルの演習をするしかないわけです.するとどこかで少し「背伸び」をするステップというのが必要になります.背伸びというのは,自分の力よりも少し上のレベルのものに食らいつく,ということです.これなしには数学力は伸びないと私は思います.ただ,背伸びをどれくらいの幅でするのかは,性格と残された時間によります.今のレベルが6のとき,次にレベル6.1のものに取り組むのか,レベル6.5のものに取り組むのか,はたまた大背伸びしてレベル8のものに取り組むのか.小刻みにレベルアップするほど,「全然解けない」という挫折感は減りますが,その分時間はかかります.大幅にレベルアップすると,当たり前ですが,解けない問題が増えてストレスはかかるかもしれませんが,時間としては短いです.私は後者の人間で,大きくステップアップして「何くそっ」と思いながら歯を食いしばるタイプでした.しかしこれが絶対的に正しいとは全く思いません.私の場合は数学が好きだったので数学の勉強に対するガソリンが満タンでした.みなさんが必ずしもそうであるとは思いません.


 何回も繰り返しますが,どの参考書をやろうが結構.自分の力と,必要とされている力を正確に把握した上で,自分の性格と,残された時間を鑑みた上で,やるべきことを確実にこなすことが,数学の力を伸ばす王道であると私は考えています.良薬は口に苦し,と言います.大抵本質的なことは,あまり耳障りが良くないものです.個別の問題に対してどのように向き合うべきか,というより具体的な話はまた次の機会にいたしましょう.今回は,数学の勉強の全体像についてお話ししました.以上,塩崎でした.
 

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